以前のコラムで引っ張り強さが高強度のアルミと鉄で同じぐらいという話をしました。アルミ材料の中でA2017とA7075はSS400に匹敵する引っ張り強さです。
では、この引っ張り強さが同じということで、そのままA2017やA7075に変更しても問題ないでしょうか?
治具や部品の場合、引っ張り強さも考えるのですが、どちらかというとヤング率が重要になってきます。ではヤング率とは何でしょうか。ヤング率は別名縦弾性係数や弾性率とも呼ばれ、材料を引っ張った際にどれだけ変形しやすいかを示す値です。
金属の場合、同じ材料種であればヤング率はおおよそどれも同じという特性があります。鉄系材料の場合SS400でもSCM435でもあまり変わらず、アルミの場合はA5052でもA7075でもあまり変わりません。
では、同じ材料で引っ張り強さが異なるのに、ヤング率が同じという場合は材料はどうなってしまうのでしょうか。簡単に説明すると、引っ張り強さや耐力が大きい材料の方が、変形しても壊れない材料になります。
ばねで説明すると、ヤング率が同じということは、同じ力で引っ張ると同じだけ伸びるという状態のことを指します。
一方、引っ張り強さが異なる場合、同じ力で引っ張り続けて引っ張り強さの値が小さい方が先に壊れるということになります。これを専門用語を使うと弾性変形の範囲が広いのが引っ張り強さが大きい方ということになります。
引っ張り強さが大きい材料は、変形はするけれど元の形に戻れる範囲が広いということですね。
そして先ほどの話に戻るのですが、アルミはヤング率で言うと鉄の約1/3になります。これは大雑把に言うと鉄の約3倍変形しやすいということになります。引っ張り強さが大体同じぐらいのSS400とA2017で言えば、同じぐらいの強さで引っ張ったり曲げたりの力に耐えて元の形に戻ることはできるけれど、引っ張ったり曲げたりしている最中の変形は3倍ぐらい大きくなるということです。
そのため、変形を極端に嫌う治具や部品が必要な場合は、アルミより鉄の方が適しているという結論になります。
用途や力のかかり方、どの程度まで変形を許容できるかによって、引っ張り強さは同じぐらいでも、適していない使い方になってしまう場合があります。どのような材料を選ぶべきか迷った場合は、お気軽にご相談ください。